シェフ岡嶋との出会い

シェフ岡嶋との出会い

素人の限界

ネットの情報、書籍の教え、自分の実験。それらを通して僕は少しずつ料理への理解を深めていきました。「真に美味しいものは複雑性をはらむ」「糖質、脂質、タンパク質、塩味等の味をバランスよく配合していくことが料理の完成度をあげる」こんなことは僕のこれまでの生涯では考えてこなかったことです。

新しい挑戦を僕自身はとてもエキサイティングに感じていますし、少しずつ試作品の品質も上がってきました。それでもやはり、壁は立ちはだかります。生み出される試作品について、検討を通して「普通に美味しいもの」はできるようになってきました。でも「とびぬけて美味しいもの」は生まれなかったのです。

Nagaraのプロジェクトで求められるのは、感動するような味を、いつでもどこでも食べられるようにすることです。そのミッションから考えると「普通に美味しい」ではやや足りないのです。
検討が前には進んでいたものの、突き抜ける手段が見えず、進んでいるのか、進んでいないのかわからずにもやもやする時期でした。

 

シェフ、あらわる。

検討当初、代表原賀は当時「感動的に美味しいトーストが焼けるトースター」で名を馳せたバルミューダでマーケターとして働いていました。

なにかブレイクスルーはないか。そんなことを考えながらも会社員として目の前の仕事に向かう日々。

そんなある日社内にある噂が流れます。

 

「一流ホテル出身のシェフがバルミューダに入社するらしい」

 

ほう?

 

「所属はマーケティング部になるらしい」

 

ほほう?

 

「席は原賀さんの隣でよろしく」

 

ええーー!!

 

あまりに都合の良い巡り合わせに大興奮。
渡りに船どころではありません。豪華客船です。

そんなこんなで偶然が重なり、このプロジェクトのキーマン岡嶋伸忠さんに出会います

彼は有名ブーランジェリーで商品企画・開発を担い、有名外資系ホテルのシェフとして腕を振るっていた人間です。

(彼はバルミューダの新型トースターにも深く関わっておりまして、そのストーリーはこちらです。彼のバルミューダ入社のきっかけも、これはこれで小説のようでした)

 

思いもよらない食のスペシャリストとの出会いに、僕はこれ幸いと積極的にアドバイスを求めるようになっていきました。だって隣にいるんだもの。

試作品に対してプロの目線で「この調味料を使ってみてはどうか?」や「もっと塩を増やした方がいい」等といった具体的なアドバイスをいただく中、ぼんやりと「本格的にこのプロジェクトに力を貸してくれないだろうか」と考えることも増えていきました。

 

鶏ももソテー美味しすぎ事件

そんな僕の心を決める事件が起きます。ひょんなことからシェフ岡嶋の作った鶏ももソテーをいただく機会を得たのです。スーパーで買った鶏肉を焼き、塩コショウをかける。おそらく人類が料理を作り出した中でもおそらく最古のものに分類されるであろうシンプルなレシピです。ただ、出来上がった一皿をいただいた時、僕は驚愕しました。

皮はパリっと香ばしく、中はジューシー、塩加減は絶妙。

同じような料理をこれまでおそらく100回は食べたことがあるはずなのに、そのどれとも違いました。別格です。
 
おそらく調味料の量とか、焼き加減とか、そういう微妙な違いの積み重ねが生んだ味わいだと思いますが、本当に美味しかった。

実験を重ねたそのころの僕は「料理は科学だ」という認識を強めていたころでした。セオリーを解き明かし、それに沿った配合をすれば美味しいモノはできる、と。その考えは大きな枠では正しいと思います。

しかし、本当に上質な味を目指すにあたっては、セオリーの先の微調整が何より重要なのだと気づかされました。料理は科学ではあるが、質を求める際はむしろ料理はアートに近い。ということなのでしょう。

科学とアートの違いは再現性。アートは再現性が無く属人的です。もしそうであるならば、実験屋ではなく、アーティストに直接絵を描いていただくべきだろう。そう考えました。

 

そうと決まったら勧誘です。

さりげなくお酒の席に誘い出し、ビールを酌み交わしながらお話をします。

お互いの酔いが回ってきた頃合いで、「自分の会社を作ろうと思っている」「忙しい人でも美味しいものを食べられるようにしたい」という話を伝えます。

薄暗くてすこし煙たい、串入れもない焼き鳥屋さんで酔っ払いが酔っ払いに夢を語るその姿は、今振り返るとコントにしか見えませんが、このプロジェクトにとっては正念場の交渉テーブルでした。

「一緒にレシピを作っていただけないでしょうか?」
赤くなった顔でまっすぐ見つめて訴えかけます。

「いいですよ。」

返事は想像よりもあっさりでした。

でも、決まった瞬間は頭の中に勝利のファンファーレが盛大に鳴り響きました。プロジェクトにとっては間違いなく大きな一歩です。

こうして、Nagaraプロジェクトに心強い味方が参画することとなりました。

弊社はあまり財務的に余裕がないため、現在岡嶋氏とは、Nagaraの売上高に応じた報酬をお支払いすることとなっています。

このすばらしい料理人のためにも、僕はNagaraを売らなければいけないのです。

 

Nagara代表 原賀 健史

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