自分で簡易レトルト食品を作ってみる
レトルト加熱殺菌工程により、料理が驚くほど変貌することをつかんだNagara一行。そんな中で美味しいものを作るにはどうすれば良いのか?
この問いの答えを探す検証が始まります。
まず知るべきは「レトルト加熱工程で何が失われるのか?」という部分。レトルト工程で失われるものや壊れてしまうモノを逆算して調合する事を目指しました。
実験のために工場にお願いしていれば、リードタイムもかかりますし、コストも馬鹿になりません。よって自宅に簡易的なレトルト加工を実施できる環境を整えることがファーストミッションでした。
「自宅でレトルト加工」というと大げさですが、手法はいたってシンプル。通販で購入したレトルトパウチの中にスープを入れ、簡易シーラーで閉じたのち、電気圧力鍋で100度以上の加熱殺菌を実施する。というものです。今の時代、大体のものはECで手にはいるものですね。
これらが簡易レトルト三種の神器です。
とにかく色々レトルトしてみる
環境が整ったら実験開始です。完成品のスープはもとより、シンプルな鶏ガラスープ、塩水、砂糖水、ただの水、味なしのジャガイモスープ等、どんな要素が変化する可能性があるのかを探るために片っ端からレトルトしていきました。
シーリング機の力不足により、3回に1回くらいの割合でスープが爆散し、泣きながらキッチンを片づける等、いくつかハプニングに見舞われましたが、努力の甲斐あってだんだん傾向をつかんでいきます。
こう見えて僕は元化学屋さんです。
化合物が高温でどうなるかのアタリはもっているので、その知見と組み合わせるとなかなか納得感のある仮説が組みあがりました。
ただし、待ち受けていたのは非情な現実です。実験を進めれば進めるほど、野菜や鶏ガラ等の繊細な旨味成分や風味といった、スープの根幹となる部分はレトルト加工で容赦無く失われてしまうことが判明していきます。
もともとこのプロジェクトをハンディスープに舵を切ったのは「市販品のレトルトスープのクオリティがあまり良くなかったから」です。「ここでとんでもなく美味しいものを出したらみんな大喜びだろうな」などとのんきに考えていました。
当時の僕は非常に浅はかで、「レトルト加工で美味しさの多くが失われてしまうから、レトルトスープでハイクオリティのものが少ない」という発想まで及んでいなかったのです。
無知とは恐ろしいものですね。
レトルト、やめます。
自宅での簡易レトルト設備で種々検討した後に出した結論は「レトルト加工からの撤退」でした。
レトルトで美味しいものを作るためには、カレーや牛丼のような、味が濃いものか、スパイスが主役の料理である必要があります。企画している冷製スープでは、どんなに調整しても、目指している味のクオリティに届かせることは困難と考えての意思決定です。
この時点でミッションが「美味しいレトルトスープの作り方」から「レトルトにたよらずとも、長期保存できるスープの作り方」に変更されました。
そしてその後さらなる研究を重ね、あるブレイクスルーを成し遂げることで、マイルドな殺菌工程で常温流通を可能にすることに成功しました。
ただ、その内容に関しては企業秘密としてとっておくことにします。
ミステリアスさは魅力の一つとも言いますし、たまには内緒にさせてください。
たまにはね。
つづく