パッケージへのこだわり

パッケージへのこだわり

パッケージへのこだわり

パッケージは体験に大きな影響を与える

コンセプトと味以外で試食会で確認したかった大きなポイントの一つがパッケージでした。

製品がもたらす体験は、製品とユーザーの接点の積み重ねにより形成されます。ユーザーのもっとも敏感な口に直接触れる飲み口や、飲む時に常に触れているパッケージ形状は、味の次に重要と言っても過言ではありません。

お酒を飲むときに、グラスによって味が変わるというのは有名な話ですし、「美味しいラーメン屋かどうかを見抜くためにはレンゲを見ろ」なんていう話も存在します。

Nagaraハンディスープは、持ち運びとややとろみのついたスープをスムーズに飲むために、スパウト(飲み口)付パウチを採用しています。

スパウトパウチ製品写真

※スパウト付パウチ(パックプラスより引用)

この手のパッケージ自体は、食品や化粧品で多く使われており、試食会でも一般的に流通している既製品を使用しました。

確認はしたかったところですが、一般的なものを使っているので大きな問題はないだろうと考えていました。

 

「飲んでる時の見え方が嫌だ」

そんなパッケージについて、試食会で予想外のコメントに出会います。
「この形、わたし結構嫌かも知れないです」
コメントをくれたのはコンサルティングをお仕事としているの20代後半の女性。是非商品を手に取ってもらいたいターゲット層の中心に位置する人物です。

そして、その場にいた女性を中心に「わかります」「たしかにちょっと微妙」という同意の声が複数あがりました。

曰く「飲み口が大きすぎる」との事。深く内容を聞くと「今のサイズだとちょっと大口を開けて飲むイメージになる。オフィスでの見え方としてもちょっと嫌だ。気になる」とのこと。

飲みやすい飲みにくいの話は想定していましたが「見え方を気にする」なんて発想は僕の中には1mmもありませんでした。我々、特に女性は僕が想像しているよりも他の人の目を気にしながら生活しているということを示す、非常に興味深いインサイトでした。

どちらにせよ、こういう不満の蓄積が製品の印象につながることは明白です。
パッケージの改善は必須と結論づけました。
しかし、この決断が後の苦悩や苦労を生むことになるとは、当時の僕は思ってもいませんでした。

 

妥協を900個か理想を1万6千個か

「飲み口を小さく」の大変さ

ユーザーインタビューから、パウチの飲み口の小型化が必須であることが判明。早速改善に動きました。

「飲み口を小さくする」ただこれだけの話、やればいいだけのイージー案件だと思っていたのですが、メーカーの話を聞いて印象は一変します。

「小さい飲み口、作ることはできるんですが、既製品は取り扱っていないんですよね」

なるほど。作ることは出来るのか。
ふむふむ。検討してみようかな、そうした時に重要なのが、、、

「最低発注ロットは1万6千個ですね」

この言葉を聞いて僕は固まってしまいます。既製品の発注であれば900個で済んでいたパッケージの仕入れ量が20倍近くまで跳ね上がる。発売前で、どれだけ売れるかわからない状態ではどう考えてもリスクが大きすぎる。
そして、別の面でも課題が見えてきます。それは「対応できる工場が限られること」です。
袋へのスープの充填は飲み口から行い、そのままねじ式キャップを締めます。


※充填機とことん研究所より


小さい飲み口への直接充填とキャッピングにはやや特殊な設備が必要で、対応できる工場が限られる上、一般的な工程ではないので多くの工場が嫌がります。
「ロットが多くて作りづらい」飲み口一つでここまで変わるものかと打ちひしがれ、決断まで苦悩の日々を過ごすことになります。
 

経営のセオリー vs 顧客体験

この時私は商品開発、ないし経営の舵取りとして、大きな岐路に立たされました。

既製品を900個仕入れるのか、理想のパッケージを1万6千個仕入れるのか。
経営のセオリーに乗っ取った場合、すべき判断は明確でした。新規事業はスモールスタートが鉄則。既製品900個一択です

曲がりなりにも経営コンサルの端くれだった僕としても、そんな事は百も承知ですし、資金的に余裕のない弊社の都合を考えてもその選択が妥当でした。

でもその選択は、顧客体験を間違いなく悪化させる。
そのことだけがずーっと頭の片隅から離れませんでした。
悩んで悩んで、資金繰りの計算をして、いろんな人に相談をして出した結論は「顧客体験の良化を何よりも優先する」でした。

はい。特注パッケージ1万6千個、ばっちりオーダーしました

正直なところ発注書の送信ボタンを送るのに小一時間かかりました。

この結論については、今も良かったと思っていますし、もちろん後悔はしていません。

ただ、これを見ている皆様が製品を手に取る機会があったとき、「原賀が悩みに悩んで、現金をだいぶ減らしてでも選んだパッケージなんだな」という事をちらりと思い出していただけると幸いです。

ひとまず「人生で一番大きな買い物は?」という問いの答えが「パッケージ」という事になりました。なかなか面白い事態なので、こんな状況も悪くないかなと思っています。

 

つづく

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